DXとIT化の基本的な違いとは?
DX(デジタルトランスフォーメーション)とIT化は似て非なる概念です。
IT化は主に業務の効率化を目的にしていますが、DXは企業のビジネス構造自体を見直す全社的な取り組みを意味します。
経済産業省は、DXを以下のように定義しています:
「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」
比較表で見るDXとIT化の違い
項目 | IT化 | DX |
目的 | 業務効率の向上、自動化 | ビジネスモデル・企業組織の変革 |
適用範囲 | 部門単位、既存業務のデジタル化 | 全社的な構造改革、価値提供の再設 |
導入例 | 会計ソフトの導入、紙の書類を電子化 | 電子請求書連携で業務フローそのものを変える |
効果 | 時間短縮・コスト削減 | 競争力強化・新たな収益機会の創出 |
厚生労働省の資料によると、「これまでの情報化(いわゆるコンピュータライゼーション)とデジタルトランスフォーメーションが大きく異なる点は、業務やビジネスモデルを変革する点にある」と指摘されています。(出典:[厚生労働省 DX全体像・企業内変革])
IT化だけではDXとは言えない理由とは?
実例で見るDXとIT化の違い
【ケース①:経費精算業務】
✖ IT化の例:経費精算システムを導入し、紙の領収書を電子化
→ 申請や承認がオンライン化され、作業効率が向上
◎ DXの例:経費精算システムを中心にワークフローを再設計
→ 承認フローの自動化、経理処理との連携、スマホアプリによる申請・確認の即時対応など、従来の精算プロセスを根本的に見直し、企業全体の経費管理を高度化
💡ポイント:DXでは「単にデジタル化する」のではなく、「システムを活用して業務フローを再設計し、全体最適を目指す」ことが重要です。
【ケース②:給与計算業務】
✖ IT化の例:給与計算ソフトを導入し、手作業での計算を自動化
→ 計算ミスが減少し、業務の効率化に貢献
◎ DXの例:勤怠管理システムと給与処理を統合
→ 勤怠データ、給与計算、振込、帳簿記録までを完全自動化し、人の介在を必要としない一貫システムを構築
一般社団法人日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)の「企業IT動向調査」によると、多くの企業がIT化(デジタル化)は進めているが、ビジネスモデル変革というDXの段階には至っていないことがわかっています。(出典:[JUAS 企業IT動向調査])
なぜ「ツール導入」だけではDXにならないのか?
IT化の落とし穴を避けるには?
多くの企業が見落としがちなのが、ツール導入だけで業務フローが改善されないという問題です。
❌ 旧来の手順のまま運用してしまう
❌ 目的不明瞭のままツールを入れて「DXしたつもり」になる
DXの本質は、「ツールをどう使うか」ではなく「何をどう変えるか」にあります。
導入の前に、「ビジネス上のどの課題をどう解決するのか?」を明確にする必要があります。
デジタル庁が推進する取り組みでも、単なるデジタル化ではなく、業務・組織の変革を伴うDXの重要性が強調されています。データやデジタル技術を使って、顧客視点で新たな価値を創出することがDXの本質です。(出典:[総務省 情報通信白書])
DXを成功させるためのポイント
「目的」から考える発想転換が必要
「とりあえずデジタル化」ではDXになりません。
重要なのは、「企業としてどんな価値を提供したいか」→「それに対してどんな仕組みにすべきか」→「そのためにどのデジタル技術を使うか」という逆算的な発想です。
経済産業省が推進する「DX推進指標」では、企業のDX推進度を測定する際に、社内システムの整備状況だけでなく、経営戦略との一体性や、事業変革への貢献度を重視しています。(出典:[経済産業省 DX推進指標])
社内の意識改革と文化づくり
技術だけでなく、社員の意識・行動・習慣もDXの成否を分ける要素です。
トップダウンだけでなく、現場レベルでの理解・共感・自発的な活用が欠かせません。
デジタル化、IT化、DXの3つのステップを正しく理解し、単なるシステム導入で満足せず、ビジネスモデルの変革まで視野に入れることが重要です。特に中小企業においては、まずデジタル化・IT化から着実に進め、段階的にDXへと発展させていくアプローチも有効です。(出典:[中小企業庁 ミラサポPlus])
まとめ|DXはシステム導入ではなく、企業変革そのもの
DXは「システム導入=完了」ではありません。
本質は、デジタル技術を使ってビジネスモデルや組織の在り方そのものを変えることにあります。
IT化から一歩踏み込んだ変革を目指し、自社の持続的成長につなげていくことが、これからの時代に求められる企業姿勢です。

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